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価格比較サイトの老舗が目指す“購買支援サービス”市場の拡大


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、株式会社ベンチャーリパブリック 代表取締役社長の柴田啓氏と取締役副社長の柴田健一氏に話を伺いました。


柴田啓氏 Eビジネスマイスター:柴田 啓
株式会社ベンチャーリパブリック 代表取締役社長


1966年1月19日生まれ、東京都出身。
1988年に慶応義塾大学法学部を卒業、同年三菱商事株式会社に入社。穀物のトレーディング業務に従事する。
1996年米ハーバードビジネススクールに留学。
1998年に帰国後三菱商事にて株式会社ローソンのM&A案件などにかかわる。
2001年に株式会社ベンチャーリパブリックを設立、同社代表取締役社長に就任。


柴田健一氏 Eビジネスマイスター:柴田 健一
株式会社ベンチャーリパブリック 取締役副社長


1972年6月26日生まれ、大阪府出身。
1995年に東京外国語大学スペイン語学科を卒業、同年日本生命保険相互会社に入社。外国株式・ファンドへの投資業務に従事する。 1998年米ハーバードビジネススクールに留学。
2000年に帰国後ウィット・ジャパン・インベストメント株式会社(現ワークス・キャピタル株式会社)を経て、2001年に株式会社ベンチャーリパブリックを設立、同社取締役副社長となる。


―社長も副社長も、どっちも柴田さんですから、兄弟に間違われるんじゃないですか?

柴田副社長
 よく間違われるんですけど、兄弟じゃありません。あまりに問い合わせが多いんで、当社のIR情報サイトのFAQに載せてあるくらいです(笑)。

※副社長の柴田氏は、2003年12月に行われた第32回Eビジネス研究会にスピーカーとして参加していただいています。


―そうなんですか(笑)。顔とか雰囲気もよく似てらっしゃいますし、まさにいいハーモニーという感じですよ。

柴田社長
 たしかに、ツーといえばカーみたいなところはあります。お互い理論派なんですけど、あんまり話し込まなくても、パッと話せば大体分かり合えますね。

 最近は、2人でゴルフにハマッています。社内で半年に1回程度ゴルフコンペをしてまして、60人ちょっとの会社なのに多いときは18人ほど集まるんですよ。


―やっぱり気が合うんですね。そもそもの、お2人の出会いはいつごろだったんですか?

柴田社長
 僕たち、同じ大学院の出身なんですよ。ハーバードビジネススクールでMBAを取得しまして。そこで一緒だった、今はゴルフダイジェスト・オンラインの社長をされている石坂さんに仲立ちをしてもらいました。


―柴田社長も石坂さんも、三菱商事出身ですよね。

柴田社長
 ええ、彼のほうが1つか2つ下だったかな。当時から、インターネットでああいうことやりたい、こういうことやりたいって、話し合ってたんです。そしたら、似たようなビジネスアイデアを持ってる人がいて、偶然同じ名字の人なんですよ、って紹介されたのが副社長の柴田です。

 そのころ、比較サイトのサービスなんて考えてる人はほとんどいなかった。僕らはアメリカを見ていたんで、これから日本にも市場が生まれるだろうって、共通の価値観で会話できる人間にやっと出会えたという思いでした。


―それで、意気投合して創業されることになったんですね。

柴田社長
 ええ。少し前から私が、日本にも比較サイトがあるんじゃないかと思ってリサーチしてたんです。目についたのは、ひとつはカカクコムさん、もうひとつが今の「coneco.net(コネコネット)」の前身である「NETde通販」というサイトでした。

 2つのサイトは好対照でして、カカクコムさんは営業マンの力で切り開いてきたサービスです。社長が秋葉原を歩いて、あちこちの店の価格をメモして回ったというのは有名なエピソードですよね。一方、「NETde通販」のほうはエンジニアが作ったサービス。ネット上に掲載されている商品と価格を自動で収集することに価値を置いたサービスです。今では一般的になっている「クローラ」の開発に早くから取り組んでいたんです。

 じゃあサイト運営者に会ってみようということになって、そのときはカカクコムさんには会えなかったんですが、「NETde通販」の大石に会うことができました。彼は、うちの創業者の一員ですし、株主でもあります。


―大石さんが創業メンバーに加わってくれた決め手は何だったんですか?

柴田社長
 当然、タイミングや運もあると思います。

 最初に話をしたのが99年のことだったんですが、光通信さんからものすごい規模の提案があったらしいんです。大石も、そっちの案でやるという答えでして、世の中の流れが変わって万が一ダメになったら一緒にやりましょうという話をして、いったん交渉が終わりました。

 ところがネットバブルが崩壊して、光通信さんとの話が御破算になっちゃった。そこで今度は、大石のほうから「まだ、あのお話は残ってますか?」って連絡をくれたんです。


―そのとき、入社していただくのにどんな条件を提示したんですか?

柴田社長
 シンプルに、小さいながらも、うちの会社で経営幹部になりませんかって(笑)。大石も、1人で事業化する難しさを感じていたんだと思います。


―ほかにも創業メンバーはいらっしゃるんですよね?

柴田社長
 ええ、ビジネススクールでは「コールドコール」というんですが、全然知らない人にアプローチして、必要な人材を集めました。取締役の西村も、そういう経緯で入社してきました。それから、コールドコールではないですが、西村も創業メンバーで当初から旅行サイトの構想を持っていまして、「Travel.co.jp」を立ち上げる原型になったんです。


―なるほど、人材はそうやって集めて、資金調達のほうはどのように?

柴田社長
 一般的にはステージドファイナンスが行われるんでしょうけど、僕らの場合は、段階を踏むのは難しいよね、って。当時はブロードバンドどころか定額制インターネットもない時代です。売上をあげるまでにはしばらくかかるよね、と話し合っていました。

 そこで、僕らの事業に興味を持ってくださるベンチャーキャピタルを探しました。出資してくださることになったベンチャーキャピタルから「もう1社、どっか見つけてきて!」と言われて、その当時はまだ三菱商事に勤めていたものですから、「出資してくれませんか」とお話しさせていただきました。

※ステージドファイナンス:技術開発やサービスモデルの構築に具体的ターゲット(マイルストーン)を設定して、ターゲットをクリアするごとに分割して実行する仕組みをさす。これによって、投資家は投資リスクを管理しながら事業の離陸をモニターすることができる。


―そんなに簡単に話が運んだんですか!?

柴田社長
 半年くらいのことを5秒くらいで言っちゃいました(笑)。


―それにしても、勤め先の会社に出資をお願いするなんて、「会社サボって何やってるんだ」って怒られないんですか?

柴田社長
 商社は、常に新規事業に対してとても積極的です。結局、冷え込んだ時期にもかかわらず、ベンチャーキャピタルと三菱商事から2億ずつ出資いただくことができて、2001年1月4日に会社を設立しました。


―会社ができても、最初はそんなにうまくは進まないんでしょう?

柴田社長
 もちろんです(笑)。

 一番大変だったのは、ネット上でモノを買う人が、2001年当時は本当に少なかったということです。われわれのサイトでモノを買う人がいない、売上があがらない、そういう冬の時代が2年ほど続きました。

 バブルがはじけてから、投資家も我慢強くなくなってきまして。アメリカみたいにインターネットが普及したら売上もついてきますよ、待ってくれ、と粘り強く説得しました。


―収益が見えてきたのはいつごろ?

柴田社長
 僕らのモデルは成功報酬で、当時は手数料が1%程度と低かったんですね。流れが変わったのは2002年ごろからでYahoo! BBをはじめブロードバンドが一気に普及しはじめたことで、2002年から2003年にかけてECがビジネスとして成り立つようになり、まとまった収益が見えてきた。2003年には、少しずつ手応えがでてきました。そこまでの道のりは長かったですね。


―株式の上場を見据えて、という側面は?

柴田社長
 会社設立当初は、1つ1つの事業ごとに会社を分けていたんですが、上場するにあたって一本化しました。別々にやっていた会計を一本化するということで費用的な効果もありましたし、当初から、別の会社といっても一緒に仕事してましたから、実態に合わせるのが大事だと思ったんです。


―そして、8月7日にめでたく上場されたと。

柴田社長
 はい、そうですね。


―逆風の中での上場ですね。最近は上場審査を通過しても途中で取りやめることもあると聞きます。柴田社長は上場をためらうことはなかったんですか?

柴田社長
 僕は上場のキーワードは信頼性と中立性だと思っているんです。僕らの事業は消費者への購買支援と情報提供ですから、上場すると、その価値をより担保できるだろうと。会社設立のときから、上場を最大のベンチマークにしてきました。

 僕らは、ほかの業界ほど資金調達ニーズは大きくないんです。実際、僕らは上場前から無借金経営をしていますし、資金環境が上場を妨げることはなかったですね。


―上場をきっかけに、社内で変わったことは?

柴田社長
 組織の力が強くなったと思います。例えば管理部門。上場前審査は厳しいので、スタッフの結束力が固まりましたし、厳しい審査をくぐり抜けたという成長を感じてもらえたようです。

 日ごろの変化としては、人材採用とか広告なんかの営業電話が増えましたね(笑)。


coneco.netのサイト
―今、事業のメインは「coneco.net」なんですか?

柴田社長
 売上比率でいうと、「coneco.net」を含むプロダクト&サービス事業部が40%、「Travel.co.jp」をやっているトラベル事業部が60%くらいです。サイトへのアクセス数はプロダクト&サービスのほうが多いですね。


―トラベル系のサイトは数が多いと思いますがどれくらいあるんですか?

柴田社長
 宿泊系の予約サイトは、大小合わせると数百あります。ツアー予約までやっている比較サイトですと、AB-ROADさんやYahoo!トラベルさんが大手ですね。


動画レビューが掲載されたconecoクラブのサイト
―coneco.netの競合といえば、カカクコムさんでしょうけど、カカクコムさんを抜く秘訣(ひけつ)は何か考えていらっしゃる?

柴田社長
 カカクコムさんを抜く抜かないは別として、弊社として現在注力していることは、ひとつは横展開ですね。扱っている分野を広げていきたいと思っています。カタログ通販商品とか、これまでもある程度拡大してきましたが、これからはさらに広げていきたいと考えています。最近ではお酒の比較サービスなども、業界に先駆けて始めました。

 もうひとつは縦の軸。最初は価格比較で始めたわけですけど、お客さんが知りたいことには価格以前の問題もありますよね。例えばうちには、クチコミサイトに動画で商品レビューを投稿できるサービスを用意しています。iPhoneを買った人が「ここがいいよ」とか、実際に操作をしている場面を動画で撮って投稿してくれるんです。このサービスも業界に先駆けて始めたサービスのひとつですね。


coneco.netのモバイル版
 それから、モバイルに強いのもうちの特徴です。比較サイトの中で、ドコモの公式サイトとして認められているのはうちのサイトだけなんですよ。

 これからも、購買支援機能を深堀りしていきたいと思っています。まだまだ、月日も、労力も、お金もかかりますけどね(笑)。


―ところで、カカクコムさんとは交流があるんですか?

柴田社長
 面識は持たせていただいていますが、実のところ競合というよりは、一緒に「購買支援サービス」の市場を拡大していきましょう、という仲間意識のほうが大きいように感じます。

 アメリカでは大手比較サイトのトラフィックを合計すると、AmazonやeBayといった規模のサイトのトラフィックを超えるくらいになっていると認識しています。そう考えると日本では、まだまだ潜在的に市場が伸びる可能性があります。

今回のキーワード:購買支援サービス
米国には複数の物販系比較サイトが存在し、おのおのが大きな規模のユーザー数を獲得している。nextag.com、Shopping.com、Shopzilla.comなど米国大手企業の商品点数・店舗数・ユニークユーザー数はいずれも日本市場より大きく、いまだ成長過程にある。
coneco.netのように、ショップなどが顧客に伝えたい情報を可能なかぎり掲載し、オープンであり、価格だけでなく在庫、決済方法、ポイント情報などさまざまな付加価値情報も掲載されていること。これにより、消費者にとって本当に知りたい情報を得ることが可能となる。こうしたバーティカル性の追求と消費者のためのサイト運営を購買支援サービスという。



URL
  Eビジネス研究所
  http://www.e-labo.net/
  株式会社ベンチャーリパブリック
  http://www.vrg.jp/



木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』としてITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサルティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES-Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2008/09/11 09:00

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