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グリーンITで意外なビジネスチャンスが広がるか?


 Eビジネス研究所が開催する「Eビジネス研究会」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」として講師に招き、業界の動向や将来のビジョンについて、参加者とのインタラクティブな質疑応答を交えたセミナーを行っています。この連載では、講演を行う前のEビジネスマイスターに、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。

 今回は、5月21日にEビジネス研究会の講師として登場していただく経済産業省の星野参事官に話を伺いました。


星野氏 Eビジネスマイスター:星野 岳穂
経済産業省 商務情報政策局 参事官


1987年4月通商産業省(現・経済産業省)入省。地球環境対策室、スタンフォード大学留学、通商政策局中東アフリカ室、機械情報産業局航空機武器課、資源エネルギー庁原子力産業課、製造産業局鉄鋼課、大臣官房秘書課等を経て、2004年からJETROサンフランシスコに出向。現地では、シリコンバレーに進出する日本発ハイテクベンチャー企業の拠点設立時を支援。2007年7月、現在経済産業省に復帰し、商務情報政策局情報通信機器課に配属。主としてR&D政策、環境政策、半導体産業政策等を担当。


―過去にEビジネス研究会で講演された、ワッチミー!TVの時澤さんとは同期だそうで。

星野氏
 ええ、同期生ですね。昭和37年生まれの寅年。彼は、当時からズバ抜けてあか抜けてましたね。ちなみに、私の誕生日は大相撲の北の湖理事長、それからジャネット・ジャクソンと同じなんですよ(笑)。


―ときどき会われることは?

星野氏
 個人的にはないですが、同期会では。彼は結局、経産省には1年しかいなかったんですが、同期会にはけっこう来てくれますよ。

※ワッチミー!TV:2006年5月フジテレビから生まれた初の社内ベンチャー企業が運営を始めたユーザー発信型映像サイト。代表の時澤正氏は通産省(現、経済産業省)出身。2006年9月、Eビジネス研究会で「日本版YouTubeは、映像をコンテンツとしてネットにどう入り込むか」をテーマに講演している。


―そうなんですか。では早速、星野さんの経歴をお聞きしたいんですが。グリーンITに携わる前はシリコンバレーにいらっしゃったとか。

星野氏
 そうです。シリコンバレーのJETROに駐在してまして。2004年の夏から2007年の6月まで、ほぼ3年間ですね。


―その前は、何を担当してらっしゃったんですか。

星野氏
 経産省の仕事はいろんなポジションを回るんですが、個別の産業界とのお付き合いが多かったですね。JETROに行く直前には2年間、人事・採用の仕事もしたことがあります。おもしろいところでいえば、地球環境対策室。今でこそ珍しくないですが、1989年に経産省に初めてこの部門ができた時の初代メンバーの一員でした。あとは、変わったところでいいますと、中東開発室。イスラエル人とパレスチナ人がどうやったら仲良くできるようになるか、間に入ってとりもったり、中東和平が進んだら、どういう産業を振興していくのか、観光なのか、製造業なのかといったことを現地の人と一緒に考えたりしていました。


―まさにコンサル的な仕事ですね。中東の国々から呼ばれるわけですか?

星野氏
 ええ、日本は中東の長い歴史にあまり関与していないので、中立的なんですよ。間に入っても、比較的抵抗感を持たれないんです。


―そういう仕事には、希望して就かれたんですか?

星野氏
 いえ、普通は個人の希望は通らないですね。でも僕の場合不思議と、着任してから歴史的な局面を迎えることが多いんです。神様だけが僕の活躍に期待してた、みたいな(笑)。中東を担当していた時には、ラビン首相とアラファト議長の握手という、歴史的な瞬間にめぐり合いましたし、シリコンバレーに赴任したときは、ちょうどGoogleがIPOをするというタイミングでしてね。


―ITバブル以来の盛り上がりでしたよね。

星野氏
 日本でも「ウェブ進化論」が出版されたりして、シリコンバレーが非常に注目された時期でした。僕はシリコンバレー産業の調査レポートのほか、インキュベーションセンターのマネージャーの仕事もしていたのですが、日本企業がひっきりなしに訪問してくるものだから、まるで観光地のインフォメーションセンターみたいに、現地の案内ガイド役をやったりしてましたよ(笑)。

※ウェブ進化論:梅田望夫氏の著書。ブログ、ロングテール、Web2.0などの現象によって創出される新しい市場についての展望や、インターネットがもたらした「知の再編」の本質が述べられている。2006年の出版以来、今なおベストセラーとなっている。



―それまで、日本の起業家に接する機会というのは?

星野氏
 ほとんどなかったですね。インキュベーションセンターで、入居希望者の面接をするようになってからです。


―なぜ、日本のベンチャーはうまく行かないのか、とか考えたりしましたか?

星野氏
 それはもう、日本のベンチャーのいいところも足りないところも見えました。英語がうまい下手という問題ではなくて、プレゼンテーションのしかたやビジネスモデルの作り方に慣れてない方が多かった。決して才能がないわけではなくて、習慣に慣れていないんです。日本では名刺を先に出すのが習慣。アメリカっぽいプレゼンというのは目的を先に出すのが習慣。「そういうものですよね」という感覚が共有できてなきゃ進まない。ベンチャーキャピタリストと一回会って、一発目の印象悪かったら終わりですから。

 僕たちはノン・プロフィットの事業ですから、儲かってIPOすることより、事業が持続可能かどうかを見るわけです。十分な資金を持ってるとか、お付き合いしてるベンチャーキャピタルやエンジェルが既にいるとか、日本で年商1億くらい稼いでるとか、とにかく2、3年シリコンバレーで頑張れる条件が揃っているかどうかで選考しました。落とすための面接ではなくて、できるだけ来てほしいので、準備不足の人には「もったいないことになるよ」と指導するのが役割でした。


―シリコンバレーで活躍された日本人、当時でしたらAZCAの石井さんなどがいらっしゃったと思うんですが、協力していただいたりは?

星野氏
 現地のベンチャーで働く日本人は、もちろん訪問しましたよ。僕のような駐在ではなくて、シリコンバレーで起業した日本人というのは、当時希少価値でしたから。それに、アメリカ人のコンサルタントにもお任せしました。

 当時、アドバイスをしていたのは、日本人のいい面を引き出せるようなビジネスモデルを作ることでしたね。プレゼンには行かないけど納期を守るとか。最低限、意思疎通の英語だけできれば、プレゼンはアメリカ人に任せてしまえばいいわけですから。


―なるほど。これから起業される方は聞きたい内容ですね。続きはEビジネス研究会の懇親会でも聞かせてもらえますか?

星野氏
 わかりました。


―では、帰国後に就かれた今の部署では、最初どんなミッションを?

星野氏
 3年前にできた部署で、本来のポストは半導体産業なんです。半導体ビジネスの競争力をつけるための政策を立てることと、ITのハードウェアに関する技術開発の予算要求を財務当局にするのが仕事。まあ、外から見たイメージでは、シリコンバレーといえば、半導体なのかも知れませんが…。


―シリコンだから、半導体!?

星野氏
 間違ってはないが合ってもないですけど(笑)。


―(笑)。ともあれ、今のポストでもグリーンITという歴史的局面に立ち会っちゃったわけですね。

星野氏
 そうそう、将来は重要な政策になるって、誰かが予言して抜てきしてくれたのかも!(笑)。昨年6月の末に戻ってきて、定例の流れで引き継いできたら、IT機器の省エネという言葉が入っていて、環境問題か?と思っていたら、それにとどまらないことが分かって、技術支援しなければならない、どんどん話が広がってきたんです。12月に大臣が提唱したことには洞爺湖サミットの話も絡んできたものだから、大ヒットの政策になっちゃって。今では業務の7割くらいはグリーンITになっています。

※経済産業大臣の提唱:2007年12月、甘利明経済産業大臣主催により、電子・情報分野の産業界のトップを招いて「グリーンITイニシアティブ会議」が開催された。大臣は設立総会の場で、「洞爺湖サミットまでには、ぜひ目に見える成果を出せるように知恵を出していただきたい」と表明した。


―グリーンITという言葉はどこから出てきたんですか?

星野氏
 別に、経産省が作った言葉ではなくて、自然発生的なものなんです。シリコンバレーにいた頃から、2006年にはGoogleがいち早く取り組んでいましたね。Googleももはや巨大企業ですから、環境貢献か?パブリックへのイメージ戦略か?と思ってたら、そうではなかった。Googleはデータセンターにサーバーを山ほど抱えているので電力消費も大変なものだった。それで、真っ先に気付いたんですね。アメリカでは2006年くらいから動きが始まって、本格的に騒がれ始めたのは2007年のことでした。


―日本企業はどうなんでしょう?

星野氏
 日本人もまったく気付かなかったわけではないんですよ。日本ではNTTデータ、NTTファシリティーズといったNTTグループが事の重大さに気付いていました。ただ、当時は石油が安かったので、まさか電力コストがここまですさまじいことになるとは誰も思っていなかった。そうしているうちに、エネルギー消費が深刻な問題になって、洞爺湖サミットのテーマが環境になるみたいだという話になって。わかりやすい政策なんで一気に広まったんです。


―富士通が日本で初めて、国際団体の「グリーン・グリッド」に加入したそうですね。

星野氏
 「グリーン・グリッド」はデータセンターの省エネを推進する団体です。これには実は、アメリカは停電しやすいという社会背景が関係してまして。データセンターも1年に1回くらい停電するんです。アメリカの基準では48時間分のバックアップ電源を持つのですが、日本ではそんなにバックアップ電源を持ってももったいないですよね。省エネになっていないのに、アメリカの格付けではAだというようなことになってしまう。日米の電力インフラの違いを考慮しなきゃいけない。そこで、日本としての方向性を定めるために、グリーンIT推進協議会を設立したんです。

※グリーングリッド:米国で2006年4月に始まった省電力化のためのコンソーシアム。AMD、HP、サン、IBMを中心に、インテル、シスコ、TI、デルなどが参加。現在では120弱の企業、団体が参加。他に、クライメートセイバーズという団体がある。


―この協議会の役割は?

星野氏
 意識改革、技術開発、国際連携の3つです。


―今は、大企業が推進協議会を主導しているようですが、ベンチャー企業には今後どのような影響があるのでしょう? プラスの面もデメリットも、両方教えていただきたいのですが。


星野氏
 まず、マイナスの影響でいうと、省エネのサーバーに買い替えなければならない時期が近づくでしょうね。コンテンツとグリーンITの関係を申しますと、ニコニコ動画やYouTubeに代表されるような、高精細な動画をダウンロードするのが当たり前の時代になってきて、情報爆発にエネルギーの供給が追いつかないという状況に直面しています。ITインフラの使用を制限するという考え方には政府は反対ですが、大量のコンテンツが、もはやフリーではないという危機感を持たなければならないんです。そんな時代ですから、ベンチャー企業で、画像の圧縮技術なんか持ってると大当たりすると思いますよ。

 また、ストレージを移すとか仮想化の技術を安く普及させるとか、コンテンツの配信のしかたを、単体ではなくシステムとして見たときにコスト削減ができるというビジネスモデルを作ることができれば、抜本的なグリーンITにつながると思います。持ってらっしゃるコンテンツ、作ったコンテンツをいかにエネルギーを使わない方法で保存、配信できるかというところにビジネスチャンスが生まれるはずです。

 セキュリティとグリーンITは時々相反するところです。例えばサーバーを共有したりするとファイアウォールが薄くなるのでは?という問題が生じますよね。セキュリティの面からくぎを刺す人も必要なわけで、そういう側面にもビジネスチャンスがあるのではないでしょうか?

 このように考えると、ベンチャー企業にとってもグリーンITは密接に関わっているわけで、今度のセミナーにも関心を持っていただけるかなと思います。


今回のキーワード:グリーンIT
IT機器・システムによる電力消費量の急激な増加は世界全体の課題となっている。日本国内においてもインターネットを流通する情報量は加速的に増大し、2025年には情報流通量が現在の200倍になると見られている。さらにIT機器の台数の増加により、消費電力量も現在の5倍以上になると予測されている。このような情報爆発時代の到来に備え、消費電力量の抜本的な削減策が求められている。
そこで、経済産業省は、半導体やディスプレイ等の省エネ技術開発をこれまで以上に推進・支援するとともに、中長期を見据えた「グリーンITプロジェクト」を2008年度から開始する。「ITの省エネ」と「ITによる社会の省エネ」を実現することを目的としており、IT機器による電力消費量を、2025年時点で全体の40%、2050年時点では半減させることをめざす。具体的な展開として、産官学の連携強化をめざす「グリーンIT推進協議会」の創設や「グリーンIT国際シンポジウム」の開催、省エネ技術・製品の普及などが計画されている。今年7月のG8首脳会合(洞爺湖サミット)での発表も注目されている。


 5月21日に開催される第97回「Eビジネス研究会」のEビジネスマイスターとして経済産業省の星野参事官が登場します。詳しくは、こちら



URL
  Eビジネス研究所
  http://www.e-labo.net/



木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』としてITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサルティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES-Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2008/04/04 09:00

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