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次世代通販を提唱し、新たなEC市場を席巻しようとするF2Mのワンストップサービス


 「Eビジネスマイスターに聞く!」では、IT業界の次世代を担うキーパーソンを「Eビジネスマイスター」と称し、Eビジネス研究所 代表理事の木村誠氏がさまざまな話を伺います。今回は、エフツーエム株式会社 代表取締役社長の浅井尚氏に話を伺いました。


松本氏 Eビジネスマイスター:浅井 尚
エフツーエム株式会社 代表取締役社長


1965年生まれ。茨城県出身。早稲田大学大学院修了(MBA)。
1990年 富士写真フイルム(株)(現:富士フイルム(株))に入社。
1997年~2002年 Fujifilm Europe GmbH(富士フイルムの欧州本社、ドイツのデュッセルドルフ)に駐在。
2002年~2004年 (株)NTTデータに転職し、新規事業企画・M&A担当、ベンチャーファンドを運用。
2004年 富士フイルム(株)に復帰と同時に、自ら(株)メディアピックスを立ち上げ、代表取締役社長に就任。
2005年 代表取締役を退任し、富士フイルム(株) 新規事業開発本部にてベンチャーファンドを運用。
2006年 自らエフツーエム(株)を立ち上げ、代表取締役社長に就任、現在に至る。
趣味はゴルフ、旅行、サッカー(最近は観戦が主)。
妻と一男一女の4人家族。


―浅井社長はサッカーをやってらしたとか。僕もやってたんでお聞きしたいんですが、ポジションはどこを?

浅井氏
 フォワードですね。高校は進学校に行ったんで、全国大会にまで行けたのは中学までだったけど、中学のときは強かったんですよ。オール日立という選抜チームにいまして、オール清水とオール日立で試合をしたりしました。その頃の相手チームには長谷川健太選手(現、清水エスパルス監督)なんかがいましたよ。


―僕たち、世代が近いですから大体わかりますよ。それで、大学でも体育会系だった?

浅井氏
 大学でもサッカーやるヤツは筑波大とかに進んでいましたけど、僕はその道には進まずに、理科系の大学に行きました。就職先に富士フイルムを選んだのは、教授推薦があったから。今では考えられませんが、1社しか受けなかったんです。


―入社して最初は、どんな部署に配属されたんですか?

浅井氏
 電子映像事業本部というところで、今はデジカメの事業をやっているところです。当時はデジカメがなかったので、8mmカムコーダという、ムービー機器でしたね。商品企画、新規技術開発とか企画系の仕事をしていました。転機になったのは、93年に海外営業部門に異動になったことですね。


―海外営業部門でどんなことをされたんですか?

浅井氏
 8mmカメラの市場導入とか、展示会の企画、運営、新商品発表会でのプレゼンをしたりですね。その後、デジカメが市場に出回る時代になり、96年にはデジカメ担当としてドイツに駐在になって、企画から営業まで何でもやりました。デジカメ1台を渡されて、それを売るためにカメラ屋をあたって、フィンランド、スウェーデン、イタリア、フランス、イギリス…、西欧13カ国ほど、ぐるぐる回りました。


―じゃあ、英語はペラペラなんですね?

浅井氏
 まあ、何とかビジネスで使えるくらいですよ(笑)。特別なことはしてないんですが、おふくろが英会話の先生で、自宅で教えていたんです。小さいときから、家に外国人がホームステイするような家庭だったんで、自然に身についていたようですね。


―そうなんですね。その後はどうだったんですか?

浅井氏
 デジカメの普及が進み、デジカメ単体では事業はいずれ行き詰まるだろうと思うようになりました。ケータイにカメラがつくようになる前の話です。

 2001年ごろ、ノキアがBluetoothという技術を普及させようとしており、ノキアと交渉し、富士フイルムと共同でデジカメで撮った画像をケータイにとばすという事業の検討をヨーロッパ主導で始めました。富士フイルムも、その市場に出たらいいのにと思って熱心に企画書を書いたんですが、最終的には通らなかったので、会社の外に出てでも新規事業をやりたいと思うようになった。

 もともと転職願望はあまりなかったんだけど、そんなタイミングでエージェントから話を聞くうち、その気になってきて(笑)。競合他社からも声をかけていただいたんですが、結局、ドイツ駐在員の立場からNTTデータに転職を決めました。


―NTTデータでは、どんな仕事をされたんですか?

浅井氏
 新規事業企画、M&Aとか、ベンチャーファンドの運用ですね。


―それまでの仕事とはだいぶ違いますね?

浅井氏
 いえ、新規事業系のことをずっとやってたので要領は分かってました。自分でも企画書を作って、その1つが現在のメディアピックス社の事業でした。

 ケータイから写真を送るとプリントして郵送しますというサービスで、月に10枚で300円、郵送料込みです。それだけではペイできないですから、広告をつけたんです。

 ユーザーのプロフィールに合わせて、例えば木村さんだったらサッカー、というふうにマッチングをして、プリントする前に、1 to 1で広告データを入れてプリントするんです。写真の中にDMが入るので、開封率は100%。当時は斬新なアイデアだったんですよ。


―この事業をきっかけに、富士フイルムに戻ることになったんですよね?

浅井氏
 ええ、新規事業系のことをやらないかと誘われまして。向こうのNTTデータとしても、富士フイルムに近付きたいという意図があって、「お前、かけはしになれ」と。

 会社も合弁にしましょう、ということになって、2社間のコラボレーションの中で戻ってきちゃった(笑)。1年だけメディアピックスの社長を務めて、その後すぐ富士フイルムに戻る約束だったので、会社を立ち上げて、これからというときに退任しなきゃいけなかったんですけどね。


―戻ってどんなことをしたんですか?

浅井氏
 当時の富士フイルムは、フィルム事業がものすごい勢いでシュリンクして、カメラ・デジカメ事業もコモディティ化が進み、採算性が悪化しはじめていた。V字回復をするために、新しい方向性を示すように命じられました。


―回復の手がかりを作ってくれと。

浅井氏
 ええ。それで、ベンチャーファンドを立ち上げたり、社内ベンチャー制度を作ったりしました。会社としては何をもって回復の手がかりを作ったかというと、やはりフィルムに特化した技術がお家芸ですから、マテリアル系の事業化が活発に行われました。その中のひとつで、液晶テレビの中に入っているフィルタは、フィルムのフィルタを応用したものなんですが、今ではドル箱です(笑)。それに医療機器事業。画像解析技術の開発とか、システム全体のデジタル化に投資しました。それに対して、自分が担当していたのは、ネット・モバイル関連ですから、実現はしませんでしたが、携帯電話会社の買収や、そのメディアレップも設立する企画もつくりましたね。


―最近では、富士フイルムが化粧品を売ってたりしますよね。

浅井氏
 意外に思うでしょ(笑)。実は、写真成分の中に、化粧品の成分になるコラーゲンが含まれてましてね。富士フイルムはもともと、純度の高いコラーゲンを作る技術を持っていたんですよ。さらに、乳化剤を細かくする技術も優れていて、肌の中まで、深く浸透する化粧品を作ることができたんです。

 その過程で、化粧品の通販の仕組みを作って、売ってくれと。そこでF2Mがコンサルテーションをして、システムを作って立ち上げました。


―今では、松田聖子×中島みゆきのコマーシャルなんかで有名になりましたよね。この事業のために、F2Mを創業なさったんですか?

浅井氏
 いえ、そもそも、通販の事業と、ネット広告の事業をワンストップでやっているサービスがなかったんですよね。そこで、広告代理店と組んで、ベンチャー会社を創業しようという企画はありました。そのタイミングで、化粧品の事業立ち上げを頼まれたって感じです。


―創業メンバーは、頼定さんと2人?

浅井氏
 最初は、この話を博報堂さんに持っていったんですよ。協業の話は、ダメになりましたが博報堂の頼定さんが、辞めて仲間になってくれた。さらに、NTTデータ時代に部下だった人間を引っ張ってきたりして組織をつくりました。


―社名は浅井社長がつけたんですか?

浅井氏
 ええ。富士フイルムマーケティングの頭文字を取ると、FFMになるんですが、Fが2つ続くのでF2にしたという意味がひとつ。さらに、「2」には、電通の「ツー」の意味もこめています。


データを分析した結果。本当の顧客はいかに集めるか広告手法の違い、使い方とその効果を検証している。
―電通の「通」の文字を取るというのも珍しいですね(笑)。ところで、F2Mの事業は次世代通販ということですが?

浅井氏
 あるクライアントのデータを分析したところ、ユーザーの74%がアフィリエイトから入ってくることが分かりました。一方で、売上全体の69%が、SEOから来たユーザーだったのです。アフィリエイトは初期段階のブランディングには効果があるが、リピーター獲得だったらSEOのほうがいい。そういうところを、緻密にデータを検証して、やっていこうと。

 さらに、CRM施策もそのユーザーが会員になった際の媒体を考慮して、さらに属性別に検証・分析しています。ここまでやらなきゃいけないんじゃないの、次世代は、というところを突き詰めてやっています。


―それが具現化したのが、OMMERCE(オマース)というシステムということ?

浅井氏
 広告効果測定システムと通販システムは、現在はまったく違う管理形態になっているのが普通です。ここを、ひもづけるために作ったシステムがOMMERCEです。

 これは、野村総合研究所(NRI)と共同で実現したものなんですが、システム基盤を向こうが作って、その上に僕らがアプリケーションを開発しました。基盤にはオープンソースが使われていますが、NRIが監視・運用・サポートをして安全性をギャランティしてくれています。


―何か具体的な事例はありますか?

浅井氏
 例えば、「ダイエット」というキーワードと「痩身」というキーワードでは、どっちの広告単価が高いと思いますか? ダイエットは250円、痩身は650円くらいです。しかも、キーワードから誘導され、購入してくれる人の数は、ダイエットのほうが多い。クリック単価は安いわ、コンバージョン率もいいわで、「ダイエット」の広告をしたほうがいいように思われるんですが、実はリピーターの売上を見ると、結果がひっくり返っちゃうんです。

 広告と通販、両方の実績データを、ある程度の期間蓄積しないと、このような結果は見えてこないんですよね。


―やっぱり、数字の裏付けがあると納得いきますね。でも、まだまだ大企業であっても、そこまでネット広告の分析を理解できるクライアントは少ないんじゃないですか?

浅井氏
 そうです。だから初心者はターゲットにしてないんですよ。うちのユーザーは、今までにネット広告をいろいろやってきたけど、効果が出なくて困っている企業さん。今まで楽天にショップを出してきたけど、自由に広告を入れられないのでそろそろ卒業したいとおっしゃるところも多いですよ。


F2Mが提唱する次世代通販のイメージ図
―それでは最後に、浅井社長のもうちょっと先のビジョンを教えていただけますか?

浅井氏
 僕は、通販はもう一度盛り上がると思ってるんです。Suicaのような電子マネーが普及してきて、10代のユーザーでも電子決済を利用できるようになった。電子マネーのシステムからポイント発行…、すべてのバリューチェーンを統合していくために、M&Aやアライアンス締結を積極的にやっているところです。

 それから、ベンチャーを作ったからにはどこかにイグジット(出口)を用意しなくちゃいけない。上場するにしても、バイアウトするにしても、いろんな選択肢はあると思ってます。

今回のキーワード:ECにおけるワンストップサービス
ネット通販に必要な機能は、販売・決済の機能を基本として、物流・配送管理、ネット注文とコールセンター注文を連動させる機能、広告プロモーション、顧客データを蓄積するCRM(Customer Relationship Management)機能など多岐にわたっている。これまでは広告会社や市場調査会社、システム運営会社等に個別に依頼するのが一般的で、それぞれが単体でしか機能しなかったが、最近、ECサイトの諸機能を統合するソリューションが脚光を浴びるようになってきた。



URL
  Eビジネス研究所
  http://www.e-labo.net/
  エフツーエム株式会社
  http://www.f2m.co.jp/



木村 誠
1968年長野県生まれ。2000年6月より『Eビジネス研究所』としてITおよびネットビジネスに関する研究、業界支援活動をスタート。2003年4月『株式会社ユニバーサルステージ』設立。代表取締役として、ITコンサルティング、ネットビジネスの企画・立案、プロデュース全般を行う。2006年ネットビジネスのイベントとしては国内最大級1000人規模『JANES-Way』実施。2007年4月よりIT業界に特化した職業紹介『ITプレミアJOB通信』をスタートさせ好評を得る。ASPICアワード選考委員。デジタルハリウッド、トランスコスモス、マイクロソフトなど講演多数。

2008/08/22 09:04

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